大判例

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大阪高等裁判所 平成元年(ネ)466号 判決

控訴人

篠原貞子

右訴訟代理人弁護士

寺沢勝子

河村武信

川西渥子

国府泰道

大江洋一

被控訴人

右代表者法務大臣

左藤恵

右指定代理人

石田裕一

外一二名

主文

本件控訴を棄却する。

当審における控訴人の新請求をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者双方の申立

(控訴の趣旨)

1  原判決を取り消す。

2  地位確認請求

(一) 第一次請求

控訴人が被控訴人の非常勤職員たる地位にあることを確認する。

(二) 第二次請求

控訴人が被控訴人に昭和四七年六月二九日に採用された従業員たる地位にあることを確認する。

(三) 第三次請求

控訴人が被控訴人との間で昭和四七年六月二九日締結した職場ヘルパー委託契約と称する労働契約類似の無名契約上の地位にあることを確認する。

(四) 第四次請求(当審で追加)

控訴人が被控訴人との間で昭和四七年六月二九日締結した職場ヘルパー委託契約上の地位にあることを確認する。

3  金員支払請求

(一) 主位的請求

被控訴人は控訴人に対し、三八万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五九年四月九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員並びに同年五月一日から毎月九日限り月額五万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。

(二) 予備的請求(当審で追加)

被控訴人は控訴人に対し、三八万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五九年四月九日以降完済に至るまで年五分の割合による金員並びに同年五月一日から平成元年三月三一日まで毎月九日限り月額五万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

5  仮執行の宣言。

(控訴の趣旨に対する答弁)

主文同旨の判決及び仮執行免脱の宣言。

二  当事者双方の主張

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決を訂正する部分)

1  原判決三枚目裏二行目の「同月二八日」を「昭和四七年六月二八日」と、同三行目の「計画課」を「窓口集配部計画課(以下「計画課」という。)」と、同五行目の「採用を希望した。」を「控訴人を職場ヘルパーとして採用してほしい旨申し入れた。」と、同七行目から同一一行目までを「被控訴人は、昭和四七年六月二八日、控訴人に対し、大阪中央郵便局窓口集配課長及び庶務課長を通じて、口頭で、控訴人を同月二九日付をもって職場ヘルパーとして採用する旨の意思表示をして、控訴人を同郵便局の職場ヘルパーとして採用した(以下「本件採用」ともいう。)。」

2  原判決四枚目表六行目の「出勤すると、」の次に「計画課担当者の指示により、」を加え、同一二行目の「原告ら」を「控訴人ら職場ヘルパー(以下、単に「控訴人ら」ともいう。)」と、同五枚目表一〇行目の「休憩室の清掃」を「休憩室等の清掃」と、それぞれ改め、同末行の「床の拭き掃除、」の次に「洗面所」を加え、同六枚目表末行の「原告らに裁量の余地はなかった。」を「かつ、職務内容も単純なものであったから、控訴人らに右職務の内容やその遂行の時期・方法について」と、同裏七行目の「日給月給制によっていた。」を「日給月給制であり、一日欠勤すると、一日分が差し引かれ、また、昭和五三年ころまでは給料の名目で支払われていた。」と、同七枚目表六行目の「超過勤務手当」を「一時間分の賃金」と、それぞれ改める。

3  原判決七枚目裏二行目の「その他」を「健康診断及び研修等」と改め、同一〇行目と同一一行目の間に次のとおり加える。

「(五) 職場ヘルパー制度廃止に伴う措置等

被控訴人は、平成元年三月三一日をもって、職場ヘルパー制度を廃止したとするところ、右廃止に際し、郵政職員で組織されている全逓信労働組合は、右廃止を職員の労働条件に関する事項として、郵政省と団体交渉し、職員の増員措置との引き換えに職場ヘルパー制度の廃止に同意するとともに、①職場ヘルパーに対し、一年以上五年未満は一か月分、五年以上一〇年未満は二か月分、一〇年以上は三か月分の解約一時金(すなわち、退職金)を支給すること、②職場ヘルパー本人の希望がある場合は、「非常勤雇用」として再雇用するよう配慮すること、③職場ヘルパーに対し感謝状及び記念品の贈呈を行うこと、④職場ヘルパー配置局の外務職員を対象に、職場ヘルパー廃止後の班運営に関する打合せ会経費として、一人当たり六〇〇円を支給すること、を合意した。そして、右合意に従って、職場ヘルパーに対し右退職金が支給され、希望者については、同年四月一日以降非常勤職員の形式で雇用が継続されている。

これら職場ヘルパー制度廃止に伴う措置等は、本件契約が、約定の期間が満了することによって当然に終了するとの趣旨のものでなく、また職員ヘルパーが労働力として職場に編入されていることの証左である。」

4  原判決八枚目表末行の「原告は」の次に「、本件採用によって、」を加え、同裏二行目と同三行目の間に「すなわち、本件採用及び控訴人の就労は、形式上は、いずれも職場ヘルパー委託契約に基づくものとされているのであるが、前記のような本件採用の経緯、就労の実態等からして雇用契約に基づくものとしての実質を有するところ、これを公務員の勤務関係に当てはめると、非常勤職員としての採用及び就労にほかならない。」を加え、同三行目の「原告は」を「そして、控訴人は」と改める。

5  原判決九枚目表六行目と同七行目との間に次のとおり加える。

「 すなわち、控訴人の勤務の法的性質が、労働契約に基づくものであるか否かは、雇用契約、請負契約あるいは委任契約とかの契約形式のいかんにかかわらず、実質的な使用従属性を、労務提供の形態や報酬の労務対償性等の諸要素を総合勘案してきめられるべきであるところ、前記のとおり、控訴人の場合、前記職務の内容及びその遂行方法につきすべて計画課担当者からの指示命令を受けていたものであり、また計画課から出される職務従事の指示に対する諾否の自由はなく、勤務場所勤務時間についても拘束を受け、他の者が控訴人に代わって前記職務に従事することも認められていなかったし、更に報酬は、月額で定められているが、職務に従事しない日一日につき月額の二五分の一に相当する金額が減額され、他方時間延長については別にそれに対応する時間当たりの追加報酬が支給されるうえ、報酬の増額が既往に遡及して実施されていて、一定時間を指揮監督下で労務を提供したことによる対価としての性格を持っていたのである。したがって、控訴人の勤務の性質は、労働者として被控訴人の指揮命令に服して労働を提供していた関係、つまり労働契約関係であることが明らかである。」

6  原判決九枚目裏一一行目から同一〇枚目表初行までの全部を次のとおり改める。

「 本件契約は、仮に労働契約として認められないとしても、民法の予定する典型契約である委託ではなく、労働契約類似の無名契約であって、解雇に関しては労働契約に適用ある解雇制限法理が適用され、かつ、契約の更新によって期間の定めのないものに転化する法的性質の契約であり、そのような契約として国公法の下においても有効に成立しているものである。」

7  原判決一一枚目裏二行目の「請求趣旨」を「控訴の趣旨2の(一)ないし(三)及び3の(一)」と、同一二枚目表二行目の「請求原因1は認める。」を「請求原因1の事実は認める。但し、被控訴人は、控訴人をその職員として採用したものではなく、控訴人との間に本件契約を締結し、控訴人が職場ヘルパーとして本件契約に基づく委託業務を行ってきたものである。」と、同八行目の「同2(三)の事実」から同一〇行目末尾までを「同2(三)の事実は、否認する。」と、同裏六行目の「事実は認める。」を「事実のうち、控訴人主張の職務をなすについて、計画課担当者等から指示がなされたことは否認し、その余は認める。」と、それぞれ改め、同一三枚目表末行の「認める。」の次に「但し、職場ヘルパーについての健康診断の受診は希望者のみであり、職場ヘルパーに制服の着用や研修への出席を義務付けたことはない。被控訴人が職場ヘルパーに対し同和研修への参加を呼びかけたのは、職場ヘルパーへの委託業務のなかに職員の生活相談に関することが含まれていて、生活相談のなかには職員のプライバシーに関する相談もありうることが予想されたため、委託業務の適切かつ円滑な遂行には同和問題についての正しい理解と認識が必要であるとの趣旨からであった。」を加えたうえ、その末尾に改行して、次のとおり加える。

「(五) 同4(五)の事実は、被控訴人が職場ヘルパー廃止に当たり、職場ヘルパーに対し一時金を支払ったことは認め、その余は争う。

被控訴人は、職場ヘルパー制度の廃止に関して、右制度の廃止が円滑に行われるように、関係労働組合に対し、事前に、平成元年三月三一日をもって右制度を廃止すること及び廃止に伴う措置について説明したことはあるが、右制度の改廃は国営企業労働関係法第八条に定めるいわゆる管理運営事項であって、そもそも団体交渉の対象になりえないものであり、実際にも職場ヘルパー制度廃止に関して関係労働組合との間で団体交渉をしたことはない。そして、職場ヘルパーに対して支払った右一時金は、委託契約に基づいて委託業務を誠実に履行してきた職場ヘルパーに対する感謝の意を表する趣旨で支払われたものであって、控訴人主張のような退職金として支払われたものではなく、また、職場ヘルパーが非常勤職員として働きたいとの申し出があった場合は配慮するとの説明は、非常勤職員を希望する者が少ないという実態を考慮し、郵便関係業務の処理実態から非常勤職員を必要とする場合は、一般募集に代えて、職場ヘルパーとして執務していたものを希望により非常勤職員として新たに採用するとの趣旨でなされたものである。」

(原判決に付加する部分)

1  控訴人

(一) 当審で追加した地位確認第四次請求の請求原因

(1) 本件契約が、労働契約や労働契約類似の無名契約に当たらず、民法上の委託契約であるとしても、本件契約は、当事者の意思表示の内容からして、職場ヘルパー制度の存続する限り、委託契約が継続されていく、期間の定めのない継続的取引契約であって、受任者の病気休業等の契約の目的を達しない特段の理由のない限りは、途中解約は許されない性格の契約である。

すなわち、本件契約締結時、被控訴人の契約担当者は、本件契約が期間の定めがなく解約を予定していない契約であることを前提に期間の定めに言及せず、被控訴人の計画課長は、本件契約締結後約一年経過した時点において、控訴人に対し、「ヘルパー制度がなくなるまで続けてくれ。」と明言していた。そして、実際にも、本件契約は、約一一年間にわたって反復更新されてきた。なお、本件契約の締結及び更新の際には、「職場ヘルパー委託請書」と題する契約書を交わしていて、右契約書には契約期間が明記されているのであるが、右契約期間は、期間内の報酬(委託料)の時宜に適った増額と据置期間を約定するためのもので、本件契約が、期間の定めがなく、途中解約を予定していない契約であることに矛盾しない。

(2) 控訴人は、本件契約により、職場ヘルパー委託契約上の地位を取得したところ、被控訴人は、職場ヘルパー制度を平成元年三月三一日付で廃止したが、被控訴人から控訴人に対し、右廃止を理由とする本件契約の解約の意思表示はなされていないから、控訴人は、未だ職場ヘルパー委託契約上の地位を失っていない。

(3) よって、控訴人は、被控訴人との間で右地位の確認を求める。

(二) 当審で追加した金員支払予備的請求の請求原因

(1) 控訴人は、被控訴人との間に昭和四七年六月二九日付で本件契約を締結した。

(2) 本件契約による控訴人と被控訴人との間の右契約関係が、労働契約あるいは労働契約類似の無名契約でないとしても、更新をあらかじめ予定した継続的契約であり、控訴人は、少なくとも、職場ヘルパー制度の存続する限り、同一条件をもって契約を更新できるとの具体的な期待権を有していた。

すなわち、被控訴人は、本件契約の締結に際し、控訴人に対し「職場ヘルパー制度がなくなるまで勤めてくれ」と要請した。そして、本件契約の締結の際に取り交わされた職場ヘルパー委託請書には、一応期間の定めがあるが、「期間満了の一カ月前までに、郵便局長、または受託者が解約の通知をしないときは翌年三月三一日までこの契約は存続するものとする。以降毎年同一の例による。但し、最初の契約の効力発生の日から起算して四年を超えないものとする。」との自動更新規定が置かれていて、契約の当然の継続が予定されていたもので、実際にも昭和五四年までは、職場ヘルパー委託請書が毎年作成されたことはなく、右請書は報酬額の改定に伴い改定額を明記するために作成されていたにすぎず、なお、本件更新規定中の但書は、単なる例文にすぎず、この但書を理由に更新を拒絶された者はない。更に、職場ヘルパーの仕事は臨時的、季節的性質を有するものでないことは仕事の性質より明らかであり、実際にも、控訴人は一一年間にわたり職場ヘルパーとして稼働してきたのであり、他にもこれまで自ら辞める以外は更新を拒絶された事例はない。

(3) 被控訴人は、昭和五八年八月一八日、控訴人に対し、「昭和五八年九月三〇日付で職場ヘルパー委託契約の更新はしない。」旨の意思表示をしたが、右更新の拒絶には、全く正当な理由がなく、被控訴人は前記更新に対する具体的な期待権を不当に侵害された。

すなわち、被控訴人は、右更新拒絶の理由として、職場ヘルパーの配置人員が四名から二名に減員となり、昭和五七年一二月当時三名いた職場ヘルパーを二名に削減しなければならなかったが、三名の職場ヘルパーのうち一名を選んで辞めさせるのは難しいので三名とも契約の更新をしないこととしたとする。しかし、職場ヘルパーの江頭武子(以下「江頭」という。)は昭和五八年四月一五日任意に辞めたので、職場ヘルパーの削減の必要はなくなっていたものである。

また、被控訴人は、江頭に対する信義上問題があるとの理由で、控訴人及び他の一名の職場ヘルパーの更新を拒絶したとするが、右理由が、継続的契約関係の更新を拒絶する合理的な理由とならないことは明らかである。なお、被控訴人は、同年一一月一日から、新たに二名の職場ヘルパーと契約締結しているのである。

(4) 被控訴人の前記更新拒絶の意思表示により本件契約が終了したものとすれば、控訴人は、被控訴人の右期待権侵害により、昭和五八年一〇月以降少なくとも職場ヘルパー制度が廃止される平成元年三月三一日まで毎月五万五〇〇〇円相当の報酬相当額の損害を被った。

(5) よって、控訴人は被控訴人に対し、昭和五八年一〇月一日から昭和五九年四月三〇日までの報酬相当損害金の合計三八万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五九年四月九日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金並びに同年五月一日から平成元年三月三一日まで毎月九日限り月額五万五〇〇〇円の割合による報酬相当損害金の支払を求める。

2  被控訴人

(一) 当審で追加された地位確認第四次請求の請求原因に対する答弁

右請求原因のうち、本件契約が民法上の委託契約であること、本件契約の締結及びその後の再締結の際に、被控訴人との間に職場ヘルパー委託請書を取り交わしたこと、右委託請書には契約期間の定めが記載されていたこと、被控訴人が平成元年三月三一日に職場ヘルパー制度を廃止したことは認め、その余の事実は争う。

控訴人との間の職場ヘルパー委託契約は、数回締結されたが、昭和五八年四月九日付で契約期間を同年九月三〇日までとして締結されたのが最後であり、同契約は同日の期間の満了によって当然に終了した。

(二) 当審で追加された金員支払予備的請求の請求原因に対する答弁

(1) 右請求原因(1)の事実は認める。

(2) 同(2)の事実うち、本件契約の締結及びその後の再契約の際に、被控訴人との間に職場ヘルパー委託請書を取り交わしたこと、昭和五五年までの右委託請書には控訴人主張の更新規定があったことは認め、その余は争う。

(3) 同(3)の事実うち、被控訴人が控訴人に対し、昭和五八年八月一八日、昭和五九年一〇月一日以降職場ヘルパー委託契約の再契約はしない旨を伝えたこと、被控訴人が、右再契約をしない理由として、職場ヘルパーの配置人員が昭和五八年四月から職場ヘルパーの配置人員が四名から二名に減員となり、昭和五七年一二月当時三名いた職場ヘルパーを二名に削減しなければならなかったが、三名の職場ヘルパーのうち一名を選んで辞めさせるのは難しいので三名のいずれとも職場ヘルパー委託契約の再契約をしないこととしたこと、被控訴人と職場ヘルパーの江頭とは昭和五八年四月一五日に職場ヘルパー委託契約を合意解約したこと、被控訴人は、同年一〇月二四日から、新たに二名の職場ヘルパーと契約締結したことは認め、その余は争う。

(4) 同(4)の事実は、否認する。

三  証拠〈省略〉

理由

一地位確認第一次請求について

1  控訴人が大阪中央郵便局の職場ヘルパーとなった経緯

〈書証番号略〉、原審証人清水辰夫の証言、原審(第一回)及び当審における控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人の行政機関の一つである郵政省は、その所掌事務である郵便事業に関し、郵便外務員の定着化等を図ることを目的として、六大都市内に所在し集配課の設置されている郵便局等に婦人の職場ヘルパーを配置し、郵便外務員に対し、親身になって身だしなみの世話をしたり、職場の整理整頓による職場環境の改善等にあたらせる施策を本格的に実施することとし、昭和四六年五月二六日、郵務局長及び経理局長名をもって、大阪中央郵便局等の職場ヘルパー配置対象郵便局長に対し、配置対象郵便局の郵便区内に居住する婦人のうちから適任者を選定して、その者を受託者として、別紙「職場ヘルパー委託請書案」により、郵便外務員の身だしなみに関する業務(以下「委託事項ア」という。)及び郵便外務の職場の整理整頓等職場環境の改善に関する業務(以下「委託事項イ」という。)を委託する旨の契約(以下、時期によって内容に変更はあるが、「職場ヘルパー委託契約」という。)を締結して、右業務を委託する方法で、同年六月一日から実施するよう通達(以下「昭和四六年通達」という。)した。

(二)  大阪中央郵便局長は、右通達に基づき、同郵便局長名で、関係の郵便局や郵政省の宿舎の掲示板等に職場ヘルパー募集の広告を掲載するとともに、天満公共職業安定所に職場ヘルパーの求人申し込みをするなどして、職場ヘルパーを募集し、これに応募した職場ヘルパー希望者との間に、職場ヘルパー希望者を受託者とし、前記委託事項ア及びイの委託業務とする「職場ヘルパー委託請書」を取り交わして職場ヘルパー委託契約を締結し、以後職場ヘルパーとして右委託業務の処理に当たってもらっていたが、職場ヘルパー数が前記通達による配置人数に不足していたため、更に職場ヘルパーの募集を継続していた。

(三)  控訴人は、郵政省の宿舎の掲示版に掲示されていた職場ヘルパー募集広告を見てこれに応募するべく、昭和四七年六月二八日、大阪中央郵便局を訪れ、計画課の担当者から、職場ヘルパーの仕事の内容、勤務時間及び報酬等について説明を受けた後、職場ヘルパーとなりたい旨申し入れたところ、右担当者から、翌二九日から職場ヘルパーとして働いてもらいたいので、同日同郵便局に来るよう指示された。

そして、控訴人は、同郵便局において、計画課の担当者があらかじめ用意していた同郵便局長宛の「職場ヘルパー委託請書」(〈書証番号略〉)と題する書面の受託者欄に署名押印し、これを右担当者を介して同郵便局長に提出し、右「職場ヘルパー委託請書」記載の内容どおりの職場ヘルパー委託契約(本件契約)を締結し、同日から、同郵便局の郵便外務員の職場で職場ヘルパーとして前記委託業務の処理に当たるようになった。

(四)  右職場ヘルパー請書の内容は、別紙「職場ヘルパー委託請書案」に沿うものであって、控訴人に対し、委託業務として前記委託事項ア及びイを委託すること、執務日時及び執務場所は、郵便局長が別に指定する日時(日曜、祭日を除く)に大阪中央郵便局において、一日四時間執務すること、報酬は、月額二万円で、控訴人が執務すべき日に執務しなかった場合は、右月額報酬から一日につき八〇〇円を差し引くこと、契約期間は、昭和四七年六月二九日を始期とし、終期の定めはなかったこと、執務内容の報告のため、執務内容を記録した日誌を郵便局長に提出して査閲を受けることのほか、秘密の保持及び契約の解除に関する条項からなっていた。

(五)  ところで、一般職の国家公務員の任用は、原則として競争試験又は選考のいずれかによってなされるものとされている(国公法第三三条、第三六条、人事院規則八―一二)が、非常勤職員の任用は競争試験又は選考のいずれにもよらないで行うことができるものとされている(人事院規則八―一四第一条)ところ、右人事院規則を受けた任用規定(郵政省非常勤職員任用規程(昭和三五年九月二六日公達第五二号))は、郵政省における非常勤職員を事務嘱託、技術嘱託、事務補助員、技術補助員、技能員及び臨時雇の六つに分類し、それぞれその採用に当たっての試験方法あるいは選考方法を定める(同規程第二条、第六条)とともに、「郵政省における非常勤職員の任期は、一日とする。」として(同規程第五条)、非常勤職員はいわゆる日々雇用する形態でのみ任用されるものとして、郵政省においては、任期の定めのない非常勤職員としての任用は、職員の任用形態として法的に予定してないものであった。また、国家公務員を任用した場合には、原則として人事異動通知書の発行及び交付がなされるのである(人事院規則八―一二第七五条第一号)が、非常勤職員の任用は、右通知書に代わる文書の交付その他適当な方法をもってこれに替えることができるものとされている(同規則第七七条第一号)ところ、郵政省においては、運用通達(「郵政省非常勤職員任用規程の運用について」と題する通達)により、右「通知書に代わる文書の交付その他適当な方法」とは、非常勤職員の発令については、辞令簿又はこれにかわる帳簿等に発令事項を記載し、本人に確認させた上、押印させる方法を指すものとされていた(運用通達第六条関係4(2)ア)。

しかし、控訴人が大阪中央郵便局の職場ヘルパーになるについて、同郵便局長において、前記職場ヘルパー委託請書を取り交わしたほかに、右任用規定に定める試験あるいは選考を実施したことも、控訴人を任用したとして辞令簿又はこれにかわる帳簿等に発令事項を記載し、控訴人に確認させ押印させるような措置を採ったことは全くなかった。

2 右認定の事実によれば、大阪中央郵便局長は、昭和四六年通達に基づいて、同郵便局の職場ヘルパーとして同郵便局における前記業務を委託すべき婦人を募集し、これに応募した控訴人との間に、昭和四七年六月二九日、右通達の指示に従って、控訴人を受託者とする職場ヘルパー委託契約(本件契約)を、民法上の準委任契約として締結したものであって、同局長において、控訴人を国家公務員としての同郵便局の職員として任用する意思がなかったことは明らかである。

なお、控訴人は、控訴人が昭和四七年六月二八日に同郵便局の職場ヘルパーとして採用されたと主張するが、右認定の本件契約締結の経緯よりすれば、本件契約締結の前日に、被控訴人あるいは同郵便局長が控訴人に対し、確定的に控訴人を同郵便局の職場ヘルパーに採用する意思表示をしたものとは到底認められない。

3 控訴人は、本件委託契約は労働契約にほかならないから、本件委託契約の締結より、控訴人は被控訴人により任期の定めのない非常勤職員(国家公務員)として採用されたことになると主張する。

しかしながら、郵政省が所掌する郵便等の事業に勤務する職員は、すべて一般職の国家公務員であり(国公法第二条第二項、国営企業労働関係法第二条第二項)、その勤務関係は、いわゆる現業公務員として国営企業労働関係法の適用があるものの、勤務関係の根幹をなす任用、分限、懲戒、服務等については国公法及びそれに基づく人事院規則の規定がほぼ全面的に適用される公法上の関係であり、このことは、一週間の勤務時間が常勤職員の四分の三以内である非常勤職員についても当てはまるのであって(国公法第二条第四項参照)、昭和五八年法律第七八条による改正前の郵政省設置法第二〇条(右法律による改正後の郵政省設置法第八条も同旨)も、常勤職員、非常勤職員の区別をすることなく、「郵政省に置かれる職員の任免、昇任、懲戒その他の人事管理に関する事項については、国公法の定めるところによる。」ものとしているのである。

そして、国家公務員は、一般職と特別職とに分類される(国公法第二条第二項)が、すべての一般職の国家公務員は、国公法及び人事院規則の定めるところにより、その者の受験成績、勤務成績又はその他の能力の実証に基づいて行われなければならず、その違反に対しては刑罰を科せられることとされているのである(同法第三三条第一項及び第一一〇条第一項第七号)。また、政府は、同法第二条第七項の場合を除いて、一般職及び特別職以外の勤務者を置いてその勤務に対し俸給、給料その他の給与を支払ってはならず、その違反に対しても刑罰が科せられることとされている(同法第二条第六項、第七項及び第一一〇条第一項第一号)。

したがって、被控訴人による国家公務員の任用は、国公法及び人事院規則に従ってなされ、前記のような公法上の関係の発生させるところの公法上の行為(相手方の同意を要する行政処分)であると解すべきものであるから、国家公務員の任用に関する国公法及び人事院規則の規定と関係なくなされ、前記のような公法上の関係の発生を意図しない、単なる私法上の契約締結行為である本件契約の締結をもって、それが仮に労働契約に該当するものであるとしても、被控訴人による国家公務員の任用行為とみなすことは到底できないものというべきである。

4  したがって、控訴人の地位確認第一次請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がなく棄却を免れない。

二地位確認第二次請求について

1  控訴人に関する職場ヘルパー委託契約の推移

〈書証番号略〉、原審証人清水辰夫の証言、原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人は、前記のとおり昭和四七年六月二九日に前記内容の本件契約を締結して、職場ヘルパーとして前記委託業務の処理に従事したが、その後、次のとおり、大阪中央郵便局長との間に「職場ヘルパー委託請書」又は「職場ヘルパー委託請書の一部を改定する請書」を取り交わすことによって、職場ヘルパー委託契約又は職場ヘルパー委託契約の一部を改定する契約を締結し、継続して昭和五八年九月三〇日まで職場ヘルパーとして委託業務の処理に従事したことが認められる。

(一)  昭和四七年七月一日、職場ヘルパー委託契約を締結(〈書証番号略〉)

昭和四七年六月二九日締結の本件契約との相違は次のとおりであった。

① 委託事項

委託事項ア及び同イのほかに、青少年外務員の生活相談に関する業務(以下「委託事項ウ」という。)が加わった。

② 報酬

一二月の報酬につき、同月一日現在で契約後引き続き三か月経過し、かつ、支給当日も契約中の者であることを条件(在籍条件)として、五〇〇〇円を加算して支給するものとされ、かつ、報酬のほかに、執務した日について交通実費額を支払うこととされた。

③ 契約期間

昭和四七年七月一日から昭和四八年三月三一日までとされ、「この期間満了の一か月前までに郵便局長又は受託者から解約の通知がないときは、翌年三月三一日まで、この契約は存続する。以降毎年同一の例による。但し、最初の契約の効力発生の日から起算して四か年を超えないものとする。」との自動更新条項が付された。

(二)  昭和五〇年八月一日、職場ヘルパー委託契約を締結(〈書証番号略〉)

(一)の職場ヘルパー委託契約との相違は次のとおりであった。

① 報酬

月額三万六〇〇〇円。但し、職場ヘルパーが執務すべき日に執務しなかった場合は、右月額報酬から一日につき一〇〇〇円(減額単価)を減額する(減額規定)ものとされ、七月及び一二月の報酬につき、各同月一日現在で契約後引き続き三か月経過し、かつ、支給当日も契約中の者であることを条件(在籍要件)として、七月は六〇〇〇円、一二月は一万円をそれぞれ加算して支給するものとされた。

② 契約期間

昭和五〇年八月一日から昭和五一年三月三一日まで。

自動更新条項あり。

(三)  昭和五一年七月一日、職場ヘルパー委託契約を締結(〈書証番号略〉)

(二)の職場ヘルパー委託契約との相違は次のとおりであった。

① 報酬

月額四万円。但し、減額規定があり、減額単価一六〇〇円。

七月及び一二月の報酬につき、前記在籍要件の具備を条件として、七月は七〇〇〇円、一二月は一万三〇〇〇円をそれぞれ加算支給。

② 契約期間

昭和五一年七月一日から昭和五二年三月三一日まで。

自動更新条項あり。

(1) 昭和五二年七月一日、職場ヘルパー委託契約の一部を改定する契約を締結(〈書証番号略〉)

右職場ヘルパー委託契約の内容の一部が次のとおり改定され、改定内容は昭和五二年四月一日から遡及適用されるものとされた。

① 執務日時

一二月については、原則として執務時間を一時間延伸するものとされた。

② 報酬

月額四万六〇〇〇円。但し、減額規定があり、減額単価一八四〇円。

一二月に執務時間を一時間延伸した場合は、一時間当たり四六〇円を加算。

七月及び一二月の報酬につき、前記在籍要件の具備を条件として、七月は八〇〇〇円、一二月は一万五〇〇〇円をそれぞれ加算支給。

(2) 昭和五三年一一月一日、職場ヘルパー委託契約の一部を改定する契約を締結(〈書証番号略〉)

右職場ヘルパー委託契約及び職場ヘルパー委託契約の一部を改定する契約の内容が次のとおり改定された。

① 報酬

月額四万八〇〇〇円。但し、減額規定があり、減額単価一九〇〇円。

一二月に執務時間を一時間延伸した場合は、一時間当たり四八〇円を加算。

七月及び一二月の報酬につき、前記在籍要件の具備を条件として、七月は九〇〇〇円、一二月は二万円をそれぞれ加算支給。

(四)  昭和五四年四月一日、職場ヘルパー委託契約を締結(〈書証番号略〉)

(三)の職場ヘルパー委託契約(但し、(三)の(1)及び(2)による改定後のもの)との相違は次のとおりである。

① 契約期間

昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日まで。

自動更新条項あり。

(1) 昭和五四年七月一日、職場ヘルパー委託契約の一部を改定する契約の締結(〈書証番号略〉)

右職場ヘルパー委託契約の内容の一部が次のとおり改定され、改定内容は昭和五四年四月一日から遡及適用されるものとされた。

① 報酬

月額五万円。但し、減額規定があり、減額単価二〇〇〇円。

一二月に執務時間を一時間延伸した場合は、一時間当たり五〇〇円を加算。七月及び一二月の報酬につき、前記在籍要件の具備を条件として、七月は一万一〇〇〇円、一二月は二万二〇〇〇円をそれぞれ加算支給。

(五)  昭和五五年四月一日、職場ヘルパー委託契約を締結(〈書証番号略〉)

(四)の職場ヘルパー委託契約(但し、(四)の(1)による改定後のもの)との相違は次のとおりであった。

① 契約期間

昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日まで。

自動更新条項あり。

(六)  昭和五六年七月一日、職場ヘルパー委託契約を締結(〈書証番号略〉)

(五)の職場ヘルパー委託契約との相違は次のとおりであった。

① 執務日時

執務すべき日から、日曜、休日のほかに、毎月別に郵便局長が指定する日一日が除かれた。

(一二月についての執務時間延伸規定が以後なくなった。)

② 報酬

月額五万四〇〇〇円。但し、減額規定があり、減額単価二一〇〇円。

七月及び一二月の報酬につき、前記在籍要件の具備を条件として、七月は一万三〇〇円、一二月は二万六〇〇〇円をそれぞれ加算支給。

③ 契約期間

昭和五六年七月一日から昭和五七年三月三一日まで。

(自動更新条項が付されなくなった。以後同様。)

④ 解除条項

従前の解約条項と同旨の規定のほかに、「郵便局長は、委託業務につき効果がみられない場合は、職場ヘルパーに改善方申し入れ、なお効果がみられないときは、この契約を解除することができる。この場合においては、一か月前までに予告するものとする。」との条項が置かれた。

(七)  昭和五七年四月一二日、職場ヘルパー委託契約を締結(〈書証番号略〉)

(六)の職場ヘルパー委託契約との相違は次のとおりであり、昭和五七年四月一日から遡及適用されるものとされた。

① 契約期間

昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日まで。

(1) 昭和五七年一二月二八日、職場ヘルパー委託契約の一部を改定する契約を締結(〈書証番号略〉)

右職場ヘルパー委託契約の内容の一部が次のとおり改定され、昭和五八年一月一日から適用されるものとされた。

① 報酬

月額五万五〇〇〇円。但し、減額規定があり、減額単価二二〇〇円。

七月及び一二月の報酬につき、前記在籍要件の具備を条件として、七月は一万五〇〇〇円、一二月は三万円をそれぞれ加算支給。

(八)  昭和五八年四月一一日、同月九日付で職場ヘルパー委託契約を締結(〈書証番号略〉)

(七)の職場ヘルパー委託契約(但し、(七)の(1)による改定後のもの)との相違は次のとおりであった。

① 契約期間

昭和五八年四月一日から同年九月三〇日まで。

右認定の事実によれば、本件契約は、それ自体としては期限の定めのないものとして締結されたが、その二日後の昭和四七年七月一日締結された職場ヘルパー委託契約により、契約期間が昭和四七年七月一日から昭和四八年三月三一日までと約定され、その後は、契約期間の満了による更新や報酬等の契約条項の一部の改定の目的で、前記自動更新条項の適用により、あるいは新規の職場ヘルパー委託契約又は職場ヘルパー委託契約の一部を改定する契約締結の方法により、たびたび更新されてきたものであるところ、右更新が自動更新条項の適用によるものであれ、新規の職場ヘルパー委託契約の締結の方法によるものであれ、いずれの場合も、更新された職場ヘルパー委託契約には、委託契約期間の定めがなされたものとされ(自動更新条項による更新の場合)、あるいは委託契約期間の定めが実際になされていたこと(新規の職場ヘルパー委託契約の締結の場合)は明らかである(以下、本件契約及びその後締結された前記各職場ヘルパー委託契約の全体を「本件委託契約」という。)。

2  大阪中央郵便局における職場ヘルパー制度

〈書証番号略〉、に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果中この認定に反する部分はたやすく信用できず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  大阪中央郵便局を含む郵便局における職場ヘルパー制度は、前記のとおり、昭和四六年通達により、同年六月一日から実施されるに至ったものであるところ、同郵便局長は、前記の方法で職場ヘルパーを募集し、これに応じた職場ヘルパー希望者との間に、職場ヘルパー委託契約を締結してきたものであり、同郵便局の職場ヘルパーは、控訴人が同郵便局の職場ヘルパーになった昭和四七年六月二九日当時は控訴人を含めて三人であり、その後四名となったが、昭和五七年一二月一〇日当時は控訴人を含めて三名となり、昭和五八年四月一六日からは控訴人を含めて二名になった。

(二)  大阪中央郵便局長が締結した職場ヘルパー委託契約は、控訴人の場合と同様に、委託契約期間の満了や委託報酬額の改定等を契機として、職場ヘルパーとの間に「職場ヘルパー委託請書」又は「職場ヘルパー委託請書の一部を改定する請書」を取り交わす方法で、更新されあるいは改定されたが、右職場ヘルパー委託契約の内容は、締結の時期によって多少異なるが、控訴人が職場ヘルパーとなった昭和四七年六月からは、控訴人の場合(前記1)と同一であった。

(三)  ところで、大阪中央郵便局の職場ヘルパー制度は、郵便外務の職場に職場ヘルパーと称する婦人を配置して、郵便外務員に対し、親身になって身だしなみの世話をしたり、職場の整理整頓による職場環境の改善等の委託業務の処理にあたらせることによって、郵便外務員の定着化及び品位の向上並びに士気高揚と作業能率の向上を図ることを目的として昭和四六年六月から実施され、昭和五六年六月からは、職場ヘルパーの業務を通じ、心のかよいあう、明るい生き生きとした職場づくりに資することを目的として維持されてきたものであるところ、同郵便局長が締結した職場ヘルパー委託契約においては、職場ヘルパーに対する委託業務は、前記のとおり委託事項ア、同イ及び同ウとされ、特に限定はなかったのであるから、右各委託事項に関するすべての業務の処理が右目的のために職場ヘルパーに包括的に委託されたものであって、職場ヘルパーが執務時間中に右委託事項に関する業務としてどのような作業をし、外務員に対しどのような働きかけをし、あるいは外務員からの要請あるいは相談にどのように対応をするかは、一応職場ヘルパーの工夫と裁量に任されていた。

もっとも、職場ヘルパーが、最初の職場ヘルパー委託契約を締結する際には、計画課の担当者から、委託業務の具体的な内容として、職服のボタン付けや破れの補修、休憩室の掃除等であるとの説明を受け、実際にも職服のボタン付けや破れの補修、休憩室の掃除等の作業が右委託業務の重要な部分を占めていたのであるが、職場ヘルパーが職場ヘルパー委託契約により委託された業務は、右作業等に従事してこれを処理することだけではなく、職場ヘルパーが、郵便外務の職場にあって、右作業等に従事することを通じ、及び郵便外務員の母親あるいは姉のような立場から、被服が汚れている場合には、洗濯するよう注意したり、職場の整理整頓について郵便外務員自身の自主性を持たせるように指導したり、郵便外務員の愚痴等を十分に聞いてやって、適切な助言をする等郵便外務員の良きコンサルタントあるいはアドバイザーとしての役割を果たすことを通じて、前記職場ヘルパー制度の目的に役立つことも含まれていたのであって、そのことは、計画課の担当者から書面等により職場ヘルパーに知らされるとともに、要請されていたことであった。

そのため、大阪中央郵便局長(実際には、その指示を受けた計画課の職員等。以下同じ)は、職場ヘルパーが、右委託業務に関して、前記職場ヘルパー制度の目的に適うよう、職場ヘルパーが自発的に種々創意工夫して委託業務の処理に当たれるよう配慮していたもので(このことは、〈書証番号略〉によって認められる。)、職場ヘルパーの業務処理に関して、その作業方法や作業の順序につき、特に郵便外務職員の執務時間なり執務態勢との関係で定時に処理することを要する作業について、その旨の指示あるいは要請をしたこと(例えば、郵便外務職員の昼食のための湯茶の準備を昼食に間に合うよう準備するよう求めたこと)を除いては、個々具体的な指示や命令を職場ヘルパーに対しほとんどしたことはなかったものであり、更に、同郵便局長においては、職場ヘルパーから提出される職場ヘルパー日誌等により、控訴人ら職場ヘルパーの作業等の概要を知ることができたが、右作業等の結果について評価あるいは評定をし、職場ヘルパーに注意や指導を加えるということはなかった。

(四)  大阪中央郵便局の職場ヘルパー制度は、上記のような制度として、平成元年三月三一日まで存続したが、郵政省全体の方針の一環として、同日をもって、廃止された。

なお、郵政省は、右廃止に際して、職場ヘルパーに対し、解約一時金として、契約経過期間が一年以上五年未満のときには委託料月額の一か月分相当額、同期間が五年以上一〇年未満のときには同月額二か月分相当額、同期間一〇年以上のときには同月額三か月分相当額を支払ったほか、全逓信労働組合に対し、職場ヘルパーから非常勤雇用として働きたいとの申し出がある場合には、雇用について配慮する旨の回答をし、大阪中央郵便局長においても、右回答に沿う措置を採った。

3  大阪中央郵便局における控訴人ら職場ヘルパーの具体的な執務状況等。

(一)  執務時間及び執務場所等

〈書証番号略〉、原審証人清水辰夫の証言、原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果中この認定に反する部分はたやすく信用できず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 控訴人ら職場ヘルパーは、職場ヘルパー委託契約に基づき、執務日あるいは委託日(日曜及び休日を除く毎日。但し、昭和五六年七月からは、職場ヘルパー委託契約上、同郵便局長が指定した日一日が毎月執務を要しない日あるいは委託しない日とされ、同郵便局長は職場ヘルパーの希望を聞いて右一日を指定した。)に、大阪中央郵便局において、四時間委託業務を処理するため、次のとおり執務した。

すなわち、職場ヘルパーの執務時間は、当初は、午前一〇時から午後二時までの四時間(A勤務)と午後一時から午後五時までの四時間(B勤務)との二交替制が採られ、各職場ヘルパーは、各自の家庭事情等などの都合に基づいて同郵便局長からの指示で、A勤務あるいはB勤務に別れて、同郵便局の郵便外務職員の職場に詰めて執務する体制がとられたが、昭和五五年になって、職場ヘルパーの執務時間は午前一〇時から午後二時までに一本化され、以後は、同郵便局長からの指示で、職場ヘルパーは、一か月ごとに輪番で、第一ないし第三集配課のうちの一つの課を担当することとなった。

なお、職場ヘルパー委託契約に基づき、昭和五二年から昭和五五年までの毎年一二月には、執務時間が一時間延長された。

(2) ところで、職場ヘルパーは、同郵便局長の指示で、昭和五六年六月まで執務開始時刻までに同郵便局五階の計画課に置かれた出勤簿に出勤印を押すよう求められていたため、外務職員の職場で職場ヘルパーとしての執務を開始するに先立って右出勤簿に押印していた。しかし、右出勤簿への押印指示は、職場ヘルパー委託契約上、職場ヘルパーの月額報酬が、執務しない日の日数に応じて減額される約定となっていたため、職場ヘルパーの報酬計算の都合上、職場ヘルパーの執務した日を確認する必要があったことによるものであったところ、職場ヘルパーの執務した日は職場ヘルパーの提出する職場ヘルパー日誌によって把握できるため、その後は、職場ヘルパーに出勤簿への押印を求めることを止めた。

また、職場ヘルパーが執務開始時刻から遅刻した場合には、計画課の担当者から、当該職場ヘルパーに対し、口頭での注意がなされ、時には(遅刻の程度が著しい場合)帰宅を指示されることもあった(この場合には、一日執務しなかったものとして職場ヘルパー委託契約に従って月額報酬から減算単価額が控除された。)。

(3) 郵便外務職員の職場には、職場ヘルパー用の執務机が置かれ、職場ヘルパーは、随時必要に応じて右机を使用して作業したり、職場ヘルパー日誌の記入をしたりしたが、職場ヘルパー用の執務机に着席していることが義務付けられていたわけではなかった。

(二)  従事した作業等

職場ヘルパーが、大阪中央郵便局において、請求原因3の(二)に記載の作業等に従事したことは、それが被控訴人の指示等に基づいてなされたものであるか否かの点を除き、当事者間に争いがないところ、原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果に弁論の全趣旨によれば、職場ヘルパーが従事した右作業等(但し、ヘルパー日誌の作成を除く)は、本件委託契約に基づいて職場ヘルパーに委託された委託事項ア、同イあるいは同ウに関する業務の内容として、すなわち、郵便外務員の職服についてのボタン付けや繕い等の作業(請求原因3の(二)の(1)の作業)は委託事項アの郵便外務員の身だしなみの整正に関する業務として、休憩室の清掃及び湯茶の用意等の作業(同3の(二)の(3)ないし(5)の作業)は委託事項イの郵便外務の職場の整理整頓等職場環境の改善に関する業務として、また郵便外務員との食生活や健康管理等についての相談は委託事項ウの職員の生活相談に関する業務としてなされたものであったことは明らかである。

そして、〈書証番号略〉によれば、職場ヘルパーは、計画課の担当者から、職場ヘルパー日誌には、職員のプライバシーに関することを記載しないように指示されていたが、右指示は、職員のプライバシーの保護の観点からのものであったことが認められる。

(三)  その他執務に関連する事項

(1) 物品の貸与

被控訴人(大阪中央郵便局長)が、職場ヘルパーに対してロッカー、靴箱、事務服を貸与していたことは当事者間に争いがないが、同郵便局長が職場ヘルパーに対し、これらの使用あるいは着用を義務づけたことを認めるに足りる証拠はない(原審(第一・二回)における控訴人本人尋問の結果中には、職場ヘルパーは貸与された事務服の着用を義務づけられていた旨の供述部分があるが、原審証人清水辰夫の証言に照らしてたやすく信用できない。)。

(2) 健康診断の受診等

職場ヘルパーが、年一回大阪中央郵便局で実施される職員に対する健康診断を職員とともに受けていたこと、職場ヘルパーは、毎年、職場ヘルパー打ち合わせ会議に出席し、同郵便局長からの要請で、執務時間中に行われる同和研修や国際婦人年研修等へも参加していたことは当事者間に争いがないが、弁論の全趣旨によれば、職場ヘルパーの右健康診断の受診は希望者のみであったことが認められるし、〈書証番号略〉、原審(第一回)における控訴人本人尋問の結果に弁論の全趣旨によれば、同郵便局長は、職場ヘルパーに対し、右研修等への参加を呼びかけていたこと、特に同和研修への参加については、委託業務の処理の過程で郵便外務員と日々接触する職場ヘルパーには、同和問題についての正しい理解と認識が必要であるとして、参加を強く要請していたため、その参加が義務的なものと職場ヘルパーには受け取られていたことが認められる。

4 前記一の事実及び右1ないし3の事実によれば、大阪中央郵便局における本件委託契約を含む職場ヘルパー委託契約は、同郵便局長が職場ヘルパーに対し、同郵便局において、所定の委託日の所定の四時間、前記職場ヘルパー制度の目的に適うように、郵便外務職員の身だしなみの整正、郵便外務職員の執務する職場環境の整理整頓とその改善及び郵便外務職員からの生活相談に関する業務全般の処理に当たることを委託し(もっとも、郵便外務職員からの生活相談に関する業務は、昭和四七年七月一日締結の職場ヘルパー委託契約から、委託事項として加えられたものであった。)、これを受託した職場ヘルパーが右委託業務処理のために精神的及び肉体的な労務を提供することに対し報酬を支払うことを内容とする準委任(委託)契約として締結されたものというべきである。

5  控訴人は、本件委託契約は、委託契約の形式を採っているが、労働契約に該当すると主張するとして、種々主張するので、以下に検討する。

(一)  控訴人は、控訴人ら職場ヘルパーの従事した前記作業等は、すべて計画課担当者の指示によってなされていたと主張する。

なるほど、〈書証番号略〉、原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果によれば、右作業等のうち職服の繕いなど及び休憩室等の清掃については、前記のとおり、職場ヘルパーが、最初に職場ヘルパー委託契約を締結する際に、計画課の担当者から、職場ヘルパーに対し委託業務の内容として説明された作業であり、湯茶の用意の作業の一部は、計画課の担当者から、郵便外務員の食事に間に合うように湯茶の用意をするよう要請されてするようになったものであること、また、職場ヘルパーが郵便外務員の生活相談に応ずることに関しては、その範囲や方法について、生活相談の範囲を越えて、業務上あるいは人事の相談に及ばないよう、かつ、生活相談等に関して知り得た個人のプライバシーを他人に漏らすことのないように計画課から注意あるいは指導されたことのあったことが認められる。

しかし、〈書証番号略〉及び右控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、右作業等のうち職服の繕いなど及び休憩室の清掃は、職場ヘルパー委託契約によって職場ヘルパーに委託された業務の主要な一部をなしていたため、計画課の担当者が右委託業務の内容に関する説明として言及したものであって、その説明も一般的あるいは概括的な内容に止まり、作業の遂行の具体的な手順や方法にわたるものでなかったこと、また、右作業等のうち湯茶の用意は、郵便外務職員の執務時間なり執務態勢との関係で定時までにしてもらう必要があったために特に時間等につき具体的な要請がなされたものと窺えるのであり、更に、郵便外務員からの生活相談に関する右のような指導あるいは注意は、委託業務の範囲を逸脱したり、相談者のプライバシーを侵害することのないよう配慮することを求める当然のものと解される。この点に関し、右控訴人本人尋問の結果中には、右作業等がいずれも計画課担当者の具体的な指示あるいは詳細な指示を受けてその指揮命令の下になされた旨の供述部分もあるが、原審証人清水辰夫、同吉田治雄の各証言に照らしてたやすく信用できず、他に右主張の事実を認めるに足りる証拠はない(なお、原審(第一回)における控訴人本人尋問の結果によれば、職場ヘルパーは、一時期、郵便外務職員からの依頼で私服の補修をしていたが、職場ヘルパーが計画課に私服の補修について苦情を述べて改善を申し入れた結果、私服の補修は、退勤時に支障がある場合の応急措置をする場合を除いては、しなくてよいこととなったことが認められるから、職場ヘルパーが、計画課からの指示で私服の補修を禁じられたものとはいえない。)。

(二)  控訴人は、控訴人ら職場ヘルパーには右作業等をするか否かについての自由がなかったことをもって、職場ヘルパーとしての労務の提供が被控訴人による指揮命令下における労働であることの根拠であると主張する。

しかしながら、右作業等はいずれも、職場ヘルパー委託契約により委託された業務の一部に当たることが明らかであるところ、職場ヘルパーは、職場ヘルパー委託契約により前記委託事項にかかる業務を包括的に依頼されてこれを受諾したものであるから、その受諾にかかる業務の一部であることの明らかな具体的な作業の依頼についてこれを拒否する自由が制限されることとなることは当然のことである(その場合の拒否は、法的には委託契約の一部不履行に当たるものというべきである。)から、職場ヘルパーに、前記委託事項にかかる業務である右作業等につき諾否の自由がなかったことをもって、職場ヘルパーとしての労務の提供が大阪中央郵便局長(ひいては被控訴人)による指揮命令下における労働であることの根拠とすることはできない。

(三)  控訴人は、控訴人ら職場ヘルパーの勤務時間及び勤務場所が指定され、管理されていたことをもって、職場ヘルパーとしての労務の提供が被控訴人による指揮命令下における労働であることの根拠であると主張する。

なるほど、職場ヘルパーは、職場ヘルパー委託契約及びこれに基づく大阪中央郵便局長の指示により、同郵便局の郵便外務員の職場で一日四時間委託された業務に従事する拘束を受け、その拘束される時間帯も定められていたのであるが、職場ヘルパーが処理することを委託された前記業務は、郵便外務員の執務場所や執務時間を離れては処理し難い性質のものであり、そのため職場ヘルパーの執務日時及び執務場所は、必然的に郵便外務員の執務場所及び執務時間と密接に関連し、これに連動する関係にあるのであるから、職場ヘルパー委託契約上前記のとおり執務日時及び執務場所が指定されていたからといって、直ちに同郵便局長による職場ヘルパーの業務の遂行に対する指揮命令の必要によるものとは断定し難いといわなければならない。そして、遅刻した職場ヘルパーが口頭の注意を受け、遅刻の程度が著しい場合に帰宅を指示されたことも、職場ヘルパーの処理する委託業務の右のような特殊性によるものとして、同様に解されるのである。

また、職場ヘルパーは、同郵便局長の指示で、執務開始時刻までに同郵便局五階の計画課に置かれた出勤簿に出勤印を押すよう求められていたため、昭和五六年六月までは、出勤簿に押印していたが、右出勤簿への押印指示は、職場ヘルパー委託契約上、職場ヘルパーの月額報酬が、執務しない日の日数に応じて減額される約定となっていたため、職場ヘルパーの報酬計算の都合上、職場ヘルパーの執務した日を確認する必要があったことによるものであったが、職場ヘルパーの執務した日は職場ヘルパーの提出する職場ヘルパー日誌によって把握できるとして、その後は職場ヘルパーに出勤簿への押印を求めることはなくなったというのであるから、この点も、同郵便局長による職場ヘルパーの業務の遂行に対する指揮命令の必要によるものとまではいうことができない。なお、職場ヘルパーの退庁時間については、同郵便局長においてこれを管理していたとの事実を認めるに足りる証拠はない。

(四)  控訴人は、職場ヘルパー委託契約に対する報酬名目で支払われた金員は、月額でもって定められているが、執務しない日については一日分の報酬が減額される一方、時間延長については別にそれに対応する時間当たりの追加報酬が支給され、また委託業務の報酬額についての増額が既往に遡及して実施されることもあったことは、右報酬が従属労働の対価としての賃金であったことの証左であると主張する。

しかしながら、職場ヘルパー委託契約による委託業務の性質上、その処理が前記のとおり執務時間内になされることを必然とする関係にあったのであるから、委託業務の処理に対する報酬が執務時間に対応して定められているからといって、右報酬が職場ヘルパー委託契約に基づく職場ヘルパーの執務が指揮命令に基づく従属労働に対する対価であるためであるとのみ理解しなければならないものではなく、また、前記二の1に認定した事実によれば、職場ヘルパーに対する報酬が職場ヘルパー委託契約締結の日より前に遡及して増額改定されている場合のあることが認められるが、右は合意による報酬改定の一方法にすぎないし、さらに〈書証番号略〉、原審(第一回)及び当審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人に対する本件委託契約に基づく報酬が、昭和五三年一一月ころの一時期、「給料」と記載された封筒に入れられて支払われたことのあったことが認められるが、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、控訴人に対する本件委託契約に基づく報酬が右のように「給料」と記載された封筒に入れられて支払われたのは、事務担当者が「報酬」あるいは「委託料」と書くべきを誤記したことによるもので、しかも、右一時期を除いては、「報酬」と記載された封筒に入れて支払われていたことが認められる(前記控訴人本人尋問の結果中右認定に反する供述部分は、何の裏付けもなく信用できない。)から、右いずれの事実も、控訴人に対し本件委託契約にもとづいて支払われた報酬が従属労働の対価としての性質を有することの根拠とはならないものというべきである。

(五)  控訴人は、職場ヘルパー日誌の作成及びその記載方法について郵便局側の指示や禁止があったことをもって、職場ヘルパー委託契約に基づく職場ヘルパーの執務が指揮命令に基づく従属労働であることの根拠であると主張するが、職場ヘルパーが、職場ヘルパー委託契約に基づいて、毎日職場ヘルパー日誌を作成して委託業務の遂行結果について報告していることは、必ずしも労働契約であることの根拠となるものではなく(民法上の委託契約(準委任契約)であっても、受託者が委任者に対し、委任者の求めに応じて委任事務の処理状況について報告義務を負うことは、同法六四五条の規定から明らかである。)、職場ヘルパー日誌について記載事項の制限も前認定の事情によるものであるというのであり、更に、前記のとおり同郵便局長あるいは計画課の担当者においては、職場ヘルパーから提出される職場ヘルパー日誌等により、控訴人ら職場ヘルパーの作業等の概要を知ることができたが、右作業等の結果について評価あるいは評定し、職場ヘルパーに注意や指導を加えるということはなかったというのであるから、職場ヘルパー日誌に関する右事実も職場ヘルパー委託契約に基づく職場ヘルパーの執務が指揮命令に基づく従属労働であることの根拠とはならないものというべきである。

(六)  控訴人は、職場ヘルパーが、大阪中央郵便局から物品の貸与をうけていること、同郵便局の職員を対象とする健康診断を受診していたこと及び同郵便局長から同和研修等に出席を要請されて出席していることなどの事実を指摘して、職場ヘルパー委託契約に基づく職場ヘルパーの執務が指揮命令に基づく従属労働であることの根拠であると主張するが、いずれも前認定の事情あるいは経緯によるものであることからすると、職場ヘルパー委託契約に基づく職場ヘルパーの執務が同郵便局長、ひいては被控訴人の指揮命令に基づく従属労働であることの根拠としては十分とはいい難いものというべきである。

(七)  そして、他には、職場ヘルパー委託契約に基づく職場ヘルパーの執務が同郵便局長、ひいては被控訴人の指揮命令に基づく従属労働であることを首肯させるに足りる事実は認められない。

6  以上によると、本件委託契約に基づいて職場ヘルパーが委託業務の遂行のためにする労務の提供は、委託者である大阪中央郵便局長の指揮命令に服してなされる従属労働であるとすることはできないのであって、本件委託契約は、その名称及び形式のとおり、前記委託業務の処理を内容とする準委任(委託)契約関係であるというべきである。

したがって、控訴人の地位確認第二次請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がなく棄却を免れない。

三地位確認第三次請求について

控訴人は、本件委託契約が労働契約でないとしても、本件委託契約は労働契約類似の無名契約として、労働契約に適用のある解雇制限法理及び期間の定めある契約が更新によって期間の定めのないものに転化するとの法理が適用されるべき労働契約類似の無名契約であると主張するが、本件委託契約が労働契約と認められない以上、労働契約であってこそ適用のある解雇制限法理等が本件委託契約に適用される余地はないというほかはない。

したがって、控訴人の右主張は失当であり、控訴人の地位確認第三次請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がなく棄却を免れない。

四地位確認第四次請求について

控訴人は、本件委託契約は、それが民法上の委託契約であるとしても、期間の定めのない継続的な取引契約であり、受託者の病気等の契約の目的を達しない特段の理由のない限りは、途中解約の許されない性格の契約であるとの主張をするので、検討する。

1 本件契約(昭和四七年六月二九日締結の職場ヘルパー委託契約)締結の経緯及びその後の更新の経緯と態様及び右更新が、自動更新条項の適用によるものであれ、新規に職場ヘルパー委託契約を締結する方法によるものであれ、その態様のいかんにかかわらず、本件委託契約は期間の定めのあるものとして更新されてきたことは、いずれも前記二の1に認定説示のとおりであるところ、右認定の本件委託契約に関する更新の経緯と態様に原審(第一回)及び当審における控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件委託契約は、昭和五七年四月一二日締結の職場ヘルパー委託契約(昭和五八年四月一一日締結の同月九日付職場ヘルパー委託契約の前のもの)までは、契約の当事者である控訴人あるいは大阪中央郵便局長のいずれかから契約条項所定の方法による解約あるいは解除の意思表示がない限りは、更新の予定された期間の定めのある委託契約として継続されてきたものと認められないではない。

2  しかしながら、同郵便局長と控訴人とは、その締結にあたり、自動更新条項を含めた契約期間の記載のある職場ヘルパー委託契約及びそれを改定する契約についての契約書(「職場ヘルパー委託請書」及び「職場ヘルパー委託請書の一部を改定する請書」)のすべてを現実に取り交わしていたのであるから、同郵便局長はもとより、控訴人も本件委託契約が期間の定めのある委託契約として継続されていることを十分に認識していたものと認められるのである(これに反する原審(第一回)における控訴人の供述は信用しない。)から、本件委託契約が右のとおり昭和五七年四月一二日締結の職場ヘルパー委託契約までは更新の予定された期間の定めのある委託契約として継続更新されてきたものであるからといって、本件委託契約が期限の定めのないものに転化したものということはできないうえ、〈書証番号略〉、右清水証言、原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果によれば、大阪中央郵便局の職場ヘルパー配置人数は、当初四名であったのが、昭和五五年七月から二名に減員されたこと、しかし、当時同郵便局には控訴人を含めて四名の職場ヘルパーがいたため、経過措置として、別途近畿郵政局からの指示があるまでは右四名の職場ヘルパーとの間に職場ヘルパー委託契約を締結することが認められ、その後職場ヘルパーは控訴人を含めて三名となったが、配置人数を超えて従来どおり職場ヘルパー委託契約を締結することが認められていたこと、ところが、昭和五七年一二月になって、近畿郵政局から、昭和五八年四月からは、同郵便局の職場ヘルパーは配置人数どおり二名とするよう指示があったこと、そのため、同郵便局においては、同年一月、窓口集配部長清水辰夫(以下「清水」という。)が中心となって善後策を検討したが、当時職場ヘルパーをしていた控訴人ら三名とも職場ヘルパーを続けていきたいとの強い意向を有していると判断され、しかも、右三名の職場ヘルパーは委託業務の処理について優劣がなく、その内の一名を除いて他の二名と再契約することも憚られたため、同年四月に、右三名について再就職先を探すなどの猶予期間として、契約期間を同年四月から九月までの六か月間とする職場ヘルパー契約を締結し、右契約期間後は右三名全員と再契約はしないとの方針を決め、その旨近畿郵政局の了解を得たこと、そこで、清水は、昭和五八年四月一一日、同郵便局窓口集配部長室に、控訴人ら職場ヘルパーを個別に呼び、職場ヘルパーの事務を所管する計画課の担当者の立ち会いの下に、それぞれ、右事情を説明し、今回は、同年九月三〇日までの職場ヘルパー委託契約を締結するが、右期間満了後は三名の職場ヘルパー全員と再契約をしない旨及び非常勤職員としてアルバイトをする希望があれば、責任をもって採用する旨の説明をしたところ、右三名は、右説明を聞き、当時は右三名ともに職場ヘルパーを止める気持ちがなかったため、清水の右説明を了承するとともに、いずれもアルバイトの希望を述べ、同日中に、契約期間を右期間とする「職場ヘルパー委託請書」に署名押印して同郵便局長に提出し、前記同月九日付職場ヘルパー委託契約を締結したものであること、そして、同年八月一八日、同郵便局窓口集配部副部長滝上順造は、控訴人に対し、同年一〇月以降は職場ヘルパー委託契約の再契約はしない旨通知したことが認められる(原審(第一、二回)及び当審における控訴人の供述中、右認定に反する部分は信用できない。)から、本件委託契約は、同年九月三〇日までを期限として締結された右職場ヘルパー委託契約の締結によって、同日を期限とするものとして更新されるとともに、期間満了後の更新はないものとして締結されたものというべきである。

3  したがって、本件委託契約は、期間の定めのない民法上の委託契約であったということはできないから、昭和五八年四月一一日締結の職場ヘルパー委託契約による約定期間の最終日である昭和五八年九月三〇日の経過によって、当然に終了したものというほかはない。

よって、控訴人の地位確認第四次請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がなく棄却を免れない。

五金員支払請求について

1  まず控訴人の金員支払主位的請求について検討するに、控訴人の右金員支払主位的請求は、控訴人の地位確認第一次ないし第四次請求のいずれかが理由のあること、すなわち控訴人が昭和五八年一〇月一日以降も、被控訴人の非常勤職員たる地位、昭和四七年六月二九日採用された従業員たる地位、同日締結された職場ヘルパー委託契約と称する労働契約類似の無名契約上の地位あるいは同日締結された職場ヘルパー委託契約上の地位にあることを前提とするものであるが、右各地位確認請求とも理由がなく、控訴人が同日以降控訴人主張の右各地位にあるとはいえないことは、既に説示したところから明らかであるから、失当として棄却を免れない。

2 次に控訴人の金員支払予備的請求について検討するに、前記四のとおり、本件委託契約は、昭和五八年四月九日付職場ヘルパー委託契約の締結によって、同年九月三〇日までを期限とし、かつ、その後の更新はないものとして控訴人も了解して更新されたものであるため、同日の経過によって当然終了する関係にあったのであるから、控訴人につき、本件委託契約が同日後も更新されることを期待するについて法的に保護されるべき利益はないというほかはない。

したがって、控訴人の金員支払予備的請求も、失当として棄却を免れない。

六以上の次第であるから、控訴人の請求は、当審で追加されたものを含めてすべて理由がないので、これを棄却すべきであるから、本件控訴及び当審での新請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官篠原幾馬 裁判官長門栄吉 裁判官永松健幹)

別紙一職場ヘルパー委託請書案

年 月 日

郵便局長 殿

住所

受託者 氏名 印

職場ヘルパーとして、下記各項を承諾のうえ相違なく履行します。

1 委託事項

郵便外務員の職場において、次の業務を行うものとする。

(1) 郵便外務の職場の整理整とん等職場環境の改善に関すること。

(2) 郵便外務員の身だしなみの世話に関すること。

2 執務日時および執務場所

郵便局長が別に指定する日時(日曜、祭日を除く。)に○○郵便局において執務するものとする。ただし、一日は○時間とする。

3 報酬及び支払期

(1) 郵便局長が支払う報酬は月額○○○円とし、受託者の請求をまって翌月○○日までに支払うものとする。

(2) 受託者が執務すべき日に執務しなかった場合は、前項の報酬の額から一日につき○○円を差し引くものとする。

4 契約期間

○○年○○月○○日から○○年○○月○○日までとする。

5 執務内容の報告

職場ヘルパーとしての執務内容について記録した日誌(様式適宜)を郵便局長に提出し査閲を受けるものとする。

6 秘密の保持

職場ヘルパーとして執務中郵便物に関して知り得た秘密について他に漏らしてはならない。職場ヘルパーでなくなった後においても同様とする。

7 契約の解除

(1) 郵便局長は、受託者がこの契約に違反した場合、または契約の履行についてはなはだしく誠意を欠いた場合は、直ちに契約を解除するものとする。

(2) 郵便局長または受託者は自らの都合により契約期間の中途においてこの契約を解除しようとする場合は、一か月前までに予告するものとする。

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